現代アートの世界では、「自分語り」を基盤にした作品が目立つ。
アーティスト自身の内面を掘り下げ、その葛藤や感情を作品に昇華するスタイルは、確かに魅力的であり、多くの共感を呼ぶ。
しかし、手島領のアートは少し違う。
彼は個人の内面だけでなく、社会全体に対する鋭い視点を持ち、そのメッセージを「BABYBOY」というキャラクターに託しているのだ。
「BABYBOY」は、一見するとカラフルでポップな赤ちゃんのキャラクター。
しかし、その小さな存在には、世界の悲劇や理不尽への怒り、そして未来への希望が詰め込まれている。
手島はこのキャラクターを通して、鑑賞者に優しい微笑みをもたらしながらも、心の奥底で何か大切な問いを投げかける。
「可愛い」の向こう側にあるもの
手島が「BABYBOY」を生み出した背景には、個人的な体験と世界情勢が深く関わっている。
彼自身が父親になったことで、新たな命への喜びと同時に、世界の不条理さに対する怒りや悲しみが噴き出した。
コロナ禍、戦争、自然災害——そんな混沌とした時代に生まれる赤ちゃんたちは、希望の象徴であると同時に、私たち大人が背負うべき責任を示している。
赤ちゃんは無垢でありながら、世界の矛盾をまっすぐに映し出す鏡でもある。
手島の「BABYBOY」は、その純粋さで、私たちが普段目を背けている現実を優しく、しかし力強く指摘する。
ネオンカラーで彩られたその姿は、ただ可愛いだけでなく、「こんな世界にしてしまった大人たちへの無言の抗議」なのかもしれない。
マルチタレントが生む多層的な世界観
手島領は単なるアーティストではない。広告業界で培ったクリエイティブディレクターとしての経験、音楽や映像制作など多岐にわたる活動が、彼の作品に独特の深みを与えている。
視覚だけでなく、聴覚や感情にまで訴えかけるその世界観は、まるで一つの壮大な物語のようだ。
彼はApple Vision Proを活用し、デジタルとアナログを融合させた制作手法で作品を
生み出している。
巨大な仮想スクリーン上で描かれたデジタルの線が、最終的には手描きによる温もりを得て完成する。
そのプロセスは、まるで現代社会の冷たさと人間の温かさが交錯するような感覚を鑑賞者に与える。
社会への問いかけとしてのアート
手島がテーマとして選ぶのは、自然災害ではなく「人的災害」だ。それは人間の意識次第で変えられる可能性があるからである。戦争、差別、環境破壊——私たちが無関心でいることの代償は、次の世代に押し付けられる。
だからこそ、「BABYBOY」は怒り、叫び、問いかける。「本当にこのままでいいの?」と。
それでも、手島の作品は決して絶望だけを描いているわけではない。
鮮やかな色彩、ポップなデザイン、そしてキャラクターの愛らしさは、希望の存在を示唆している。どんなに困難な時代でも、新しい命は生まれ続ける。その事実そのものが、未来への希望であり、私たちが守るべきものなのだ。
未来への期待
手島領のアートは、一つの答えを提示するものではない。むしろ、私たち自身に考える余白を与えてくれる。
鑑賞者は「BABYBOY」の無垢な瞳を通して、世界の矛盾、自分自身の在り方、そして未来への責任について思いを巡らせる。
彼の今後の活動に期待するのは、そのメッセージの広がりである。音楽、映像、広告といった異なるメディアを横断しながら、「BABYBOY」がどのように進化していくのか。
可愛いだけでは終わらない、心に刺さるアートとして、手島領の世界観はこれからも多くの人々に問いかけ続けるだろう。
最後に、この問いを心に留めておきたい。「私たちは、次の世代にどんな世界を残すのか?」
その答えは、もしかすると「戦う赤ちゃん」の中に隠れているかもしれない。
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手島領 Ryo Teshima▶ 作品ページはこちら |
「Plastics」
2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。